アフリカのサンドイッチ

お腹が空いていたので、最寄りの駅より一つ前の停留所で降りて、アフリカ料理のインビスに行きます。
そこは黄緑色のお店で、いつもおじさんが一人暇そうに電灯に照らされています。
今日はスマホをいじって下を向いていました。

私はいつもここでマカリ、というピタパンに揚げ野菜を挟み最後にピーナッツソースをかけたサンドイッチを頼みます。
3ユーロです。チキンは入れません。
このサンドイッチを友達とは密かにアフリカンケバブ、と呼んでいますが、最近やっぱりこれはケバブではないなと思い始めました。

おじさんはピタパンを焼いて、その間にナスや人参を少しの油で炒め揚げます。

温まったパンに揚げ野菜、生野菜をトングでひょいひょいと挟んでいき、最後にこちらを向いて「辛いソースはいる?」と聞いてきました。

「うん」とうなずきます、丸くなったサンドイッチは水色と白の縞のビニール袋に入れられ、クルンと包まれます。
このビニール袋の小ささが、このピタパンのためだけに作られたかのようなサイズ感でいつも私は嬉しくなります。

3ユーロ払って店を出、すぐにサンドイッチを食べ始めます。

マフラーを巻いていて食べにくいので、グイッと顎の下にそれを引っ張って首との間にぎゅっと挟み、片手にはティッシュを持ち、これで準備は完了です。

カリッと焼かれたパンは噛めば噛むほど甘い、あ、おじさんピーナッツソースかけてるの忘れてるじゃん、あれが一番大事なのにな、と思いながらまた二口目。

一番最初にこれを夜に食べた時も貪るようにして食べ進んでいたことを思い出しました。
あの時は朝ごはんも昼ごはんも食べていなくて、このサンドイッチを口にしてからやっとそれに気づいたくらい疲れていた日でした。
体が1日で初めて得た食べ物に過剰に反応して、ほとんど過呼吸みたいな自分の意思では止めることのできない、発作的な食べ方で。
胃や腸が痙攣してグイグイ栄養を吸い込もうとする力に、顎やのど、舌が支配されている感じ。

今日も食べ始めたら、無心で、溢れるのもかまわずどんどん飲むように食べる私。昼ごはんは食べたはずなのに、お腹が空いている。

なんでだっけ、

あ、今日はとっても楽しみにしていた中華レストランでのランチだったのです。

中国人の友達が「ドイツで食べたなかで一番美味しい中華レストラン」ってオススメしてくれたところで、前にも一度すっごく辛い麻婆豆腐を食べました。

一緒に食べに行った恋人は、「隣の席の中国人もこれ辛すぎるってウェイトレスさんに言ってる」と中国語もわからないのに、
隣の麻婆豆腐を指差しながら何やら言っている客を見ながら言いました。

「なんで、そんな言ってるなんてわかんないじゃん」と言っても彼はこの話をこれからまた何度かすることになります。

「あそこは中国人でも辛すぎる麻婆豆腐を出す店だ」と。

今日も本当に楽しみにしてレストランにいきました、ランチメニューがあったので5.9ユーロの豚肉炒めにしました。
今回は麻婆豆腐と戦う気持ちもなかったので。

お通しとして赤いスープが出てきました、
スウィートチリソースを片栗粉水でとろとろに溶かしたような酸っぱい液体。

あんまり美味しいとは思わなかったのですが、まだ「ここは美味しい中華やさんフィルター」がかかっているので私の判断も鈍ります。

いっときして、頼んだものがやってきました。

一眼見て、「あ、なんか違う」と思わせる見た目。

グニグニの豚肉かもわからない、脂肪と赤身の中間のような肉。また少し酸っぱい茶色いソース。
私はとろとろしすぎた液体には非常に厳しいです。
それは長崎という皿うどんの国に生まれ、あんかけに幼き頃から慣れ親しんできたせいからかもしれません。

本当に美味しくなかった、実はそんなにまずいものでもなかったのかもしれませんが、私は予想していたものを大幅に下回る味にがっかりし、とても悲しくなり
食欲も一気に失せました。

コメをソースにつけて食べ、玉ねぎとパプリカだけ口に運び、ただ「まずい」と言っていました、一緒に来ていた恋人もどんよりとした顔で彼の料理を食べていました。

これは私が悪いです、彼はのちに「まずい、まずい言いながら食べちゃだめだ、美味しいものも美味しくなくなるから」と言いました。
彼の頼んだ牛肉炒めは確かに美味しいものでしたが、私の言葉が料理を冷めさせ、彼の表情を暗くさせていました。

中国人の友達の彼女がこのレストランの近くに住んでいたので、二人はよくここで食べていたそうです。
「愛のフィルターがかかっていたから、ここ美味しく感じていたのかもな」と私がいうと、
恋人は「それは君だって(中国人が勧めたから)というフィルターかけてたじゃない」と言いました。
それとこれは少し違う気がしましたが、一緒なのかもしれません。

揚げたナスは柔らかく、肉のような旨みがあります。
ピンク色したピクルスは酸っぱすぎるので、一回かじって終わりにします。
辛いソースはそこまで辛くありませんでした、
冷たいトマトと、レタスの上にかかったスパイスの粉はおばあちゃん家の香りがします。

石畳は青く光り、ところどころオレンジ色の電灯に照らされています。
前食べた時も小雨が降っていました。

向かいから犬がやって来て、全くこちらを避ける気配がありません。
もしかしたら飛びかかって来て、私のサンドイッチを奪い取るつもりなのかしら、と思ったら直前で右に逸れ、家の壁にマーキングをしました。

ある冬の日、森に散歩に行った時に、ホットドックを友達が途中で買いました。

そのソーセージはジューシーでとっても美味しかったのですが、その匂いを嗅ぎつけた犬がそのソーセージをかじろうと、ジャンプして私と友達の間をすり抜け、前から堂々と駆けて来てそのまま私たちの顔まで飛び上がって来たりしたのでした。

そこは車も通っていない、自然の散歩道でたくさんの飼い犬と人が一緒に歩いていました。犬はリードもなしに駆け回り、いつもは厳しく躾ける飼い主もその日は穏やかにそれを見守っていました。

だから、自分の飼い犬が人のソーセージを奪い取ろうとしていても、笑って見ているだけで、何もせず、私たちが数匹の犬に囲まれて怯えるだけでした。そもそも犬が多すぎて誰の犬かもわからない状況でした。

ここのソーセージが一番美味しかった記憶があります、それからはどんなソーセージを食べても「あそこには敵わないな」といつもがっかりすることになります。

犬に食べられないように必死に守ったあのソーセージだからこそ、
あそこまで美味しく感じたのかもしれませんが。

たくさんの犬が駆け回るあの森まで、またソーセージを買いに行ってもいいかなと思います。

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