ザビエルとバーコード

ワイシャツの袖口から中を覗くのが好きだった。

太陽の光が布を透けて、肌はオレンジ色に輝きあたたかい。

丸い円筒の中は自分だけの世界で、静かで、柔らかそうだ。

この中で暮らしたいな、と思いながら眺めていた。たいていは数学の授業中。

そうしているうちに、夢の中へ。

ッと目覚めれば、目の前にはかがんで私を見つめる先生の顔が。

心臓は縮みあがり、思わずよだれもズッと音を立てて吸い上がる。

『そんなにつまらないなら、後ろ向いて授業受ければ?』

あと五分で終わりのチャイム。

私は黒板を背に、立ったまま残りの数式を解く。

耳だけそばだてて、先生が黒板に書く白い解説を想像する。

五分だけ、というのもあったかもしれないが、意外とその時間は楽しいものだった。

数学の先生は怖くて有名だった。私の同級生たちは今もトラウマに悩まされている。(私も例外ではない)

高校も卒業して何年か経ち、『あ〜高校生、なんだかんだ楽しかったな』と感慨にふける頃、私たちは夢を見るのだ。

予習が必要なのに、真っ白なノート。先生の足音が近づいてくる、しかし全然解けない微分、焦れば焦るほど数式はバラバラになっていく….夢。

え、今日テストのやり直しノート、提出日だったの???忘れた…どうしよう、課題2倍だ…..それ以前に先生に言いに行くのが怖すぎる…..と泣く夢。

高校生の頃感じていた、緊張、恐ろしさで息も詰まる気持ちまで完璧に再現された夢をみて、私は『は〜卒業してよかった!』と心改める。今の環境にしみじみと感謝する朝を迎える。

先生に怒られて泣いた生徒は数知れず。

友達が廊下で泣いていたとき、私は理由を知りもせず『花粉症きついの?』と聞いた。(本気でそう思ったのだ)

友達は『うん』と頷いて笑った。

えこひいきしがちな他の先生たちと比べて、彼は『え、その子もターゲットになったのか!』と驚くような子まで叱った。

誰もが、一つは先生の逆鱗に触れたエピソードを持ち、当時は泣きそうになっていたくせにあとで武勇伝のように語るのだ。(私もその一人)

そんなに怖い先生なのに私はまた授業中に眠ってしまった。

もはや呆れている周りのため息、そして気づけば教室の前まで引っ張ってかれていた。

『今から寝たやつは、黒板の前で片足立ちしてもらうからな』

授業のはじめに言われた冗談を『ばっかやん』と笑っていた私は、今カカシになっています。

そして頭の上には教科書が載せられた。でもそれは嫌なので、気づかれない程度に首を傾げて全て落とす。

そこまでされると私も逆ギレのような気持ちで仁王立ちしているし(片足だけど)教室を見渡せば、笑いを堪えた顔がちらほら。

終わった後に、友達に『よく泣かなかったね』と褒められた。

私は数学の才能が皆無だったため、さらに先生には恐怖の念を抱いていたのですが、彼は『努力していれば、数学ができなくても、まあ仕方ねぇ』と思っていたと感じます。

実際、テストの点数が悪くても、ちゃんと取られたノートを見せれば特にめちゃくちゃに怒れることはありませんでした。(確か、そうだった。)

でも一回、考査の数学のテストの点数が悪すぎて

体育館で並んで前髪の長さを測られるのを待っているときに(うちの高校は、考査のあとは身なりチェックが毎回あった。)、先生は私の元に一直線にやってきて、

『テストの採点をしたけど、ほんとにお前、本気で準備したか?』と聞いた。

私は(これはなんと返事すれば一番怒られないのだろう)と0.3秒くらいで考えて

『いいえ』のボタンを押した。

『ああ、そう。即答するほど、本気でやってないんですね』と言って、彼はそのまま去っていた。

私の右の友達は、『そこは、はい、というべきでしょ。』と言ったし

左の子は『いや、結局どっちにしろ怒られてるよ。』と言った。

数学の点数は相変わらずよくないものだったけど、別にもう、私は諦められていた気がする。

ドイツに行くから、日本の大学を受けるわけでもないし。

もう一人の数学の先生は優しくて、怒ってもあんまり怖くなくて好きだった。

私が授業中に手のひらを眺めていたら

『mimiはそんなに自分の手が好きか〜!』と言ったし

(多分、もう一人の先生だったら私を磔の刑にしていたと思う)

私が眠そうにしていたら

『mimiは昨日、ロールパン作ったらしかな!』と声をかけた。

(私の高校は毎日、日誌みたいなものを提出する必要があった。)

その先生は、私が中学校の頃から6年間ずっと一緒だったんだけど

途中で学年主任になってから、『みんなをまとめなくてはいけない』というプレッシャーが大きすぎて、意味のわからないところで怒るようになってしまった。

でも私は前の優しい先生をずっと忘れらなくて、周りの子が

『あいつ、うざい、』と言っても、先生のことが嫌いになれなかった。

しかも、彼は雨男の噂ももっていて、行事で雨が降るたびに濡れ衣を着せられていた。

私は先生のせいではないって立場だったんだけど、高校最後の遠足が雨で中止になった時は

『も〜….先生のせいだ!』と思わずそっち側になってふくれっつらをした。

対極にいるみたいな二人の数学の先生だったけど、実は彼らには共通点があった。

ここでは書けないけれど、私の同級生ならわかるよね。

一人は潔かったけど、もう一人は諦めきれない様子だったね。

人にも自分にも厳しい彼だから、いっそ剃り上げてしまいそうなものなのに…と私は彼の中のアンビバレンツをいつも感じていたな。

今日は数学の先生のことを書きましたね。

公開してもいいものかしら。

おやすみなさい。

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