きらきら眺める

今やっと三つの椅子を全て塗り終えた。

塗り終えてやっと、5月から自分にのしかかってきた得体のしれない何かから解放されたような気がした。ずっときつかった、自分の心の余裕のなさから出た言葉や態度で傷つけてしまった人もいるかもしれない。いや、いる。 

引っ越してすぐに学祭があり、その三日後には椅子を展示しなければならなかったので、私の新しい部屋は早々に散らかり放題だった。掃除機、ハンマー、絵の具や木の粉で到底人の住む場所ではない。Wi-Fiもまだ繋がっていないので、なんだか椅子を作るためだけにこの部屋に帰ってくるみたいな日々だった。

五月はファッションみたいな鬱に酔っ払ってたら、ほんとうの危機がガツンとやってきた。でも一時的な通り嵐(雨と呼ぶには激しすぎた)みたいなもので、過ぎ去った後は晴れやかな気持ち。すっかりキャパオーバーしていたのだと思う。その時の私の様子を見ていた友達は「ランナーズハイみたいになってたよ、キラキラしてた」と言った。

ファッション鬱を身に纏っていた頃メモしてた気持ちを今読み返すと、「居心地が良さそうだな」と思った。きっと切実に辛かったのだろうけれど、暖かい蜜みたいなもので守られているように感じた。何をしても「私はこんなに悲しいんだから仕方ない」と自分を許して包み込む。簡単にいうと自己陶酔、私は自分を守るために涙で蜜の壺をこさえる。甘くて優しくてずっとなめていたいよ。

学祭では初めて寿司と餃子の出店をした。

朝行くと、友達がレースに絡まった有刺鉄線を抜いていた。それらと、白く塗られた棒で組まれた直方体も捨てられていた、それが私たちの店になる。屋根も何もないので、レースを上からかけるのだ。「有刺鉄線つけたままの方が、可愛いんじゃない。」と言っても友達は笑っただけで、ほどく手を止めようとしなかった。

もう一人の友達が来て、色とりどりに連なる小さなライトを屋台のまわりに巻いた。夢みたいにかわいかった、とても幸せな気持ちになって、もう今日はこれで終わってもいいなと思った。

メニュー表を書きながら、その子は「私、タトゥー彫れるようになりたいんだ。韓国に一時帰国したらタトゥークラスに通うと思う。」という。

「え、私してもらいたい、」「ここにしてよ」と腕出し、ヘソ出して思い思いの場所を指差す私たち。友達は魚の腹みたいな腕みせながら「白いのがいいな、浮き上がったみたいなの」と言った。「ま、一年後ね、練習必要だから」と笑う友達。

次の冬にはピアスの穴を開けたい、「穴開けるの、痛かった?」と7歳の子に聞くのをやめたい、「一瞬あついけど、その日寝て次の日にはもう痛くなかったよ」とその子は言った。両耳に金の星形ピアスが光ってた。実は決心ついたのは、その子の言葉がきっかけ。

近所のキオスクで80セントでリキュールの小瓶が売られてた。箱いっぱいの小瓶をカチカチいわせながら友達と、お気に入りを探した。友達は飲むために、私は眺めるために。

グリーンのテレビ型したリキュールを見つけた、「あ、それいいね~!かわいい、いいね!」と友達に言われて(欲しいな)と思った。私の固まっちゃった顔を見て、友達は私にその緑を譲ってくれた。もう一つの酒に浸かった色あせた海の写真は、故郷の喫茶店から眺める海を思い出させた。写真の海は全然綺麗だとは思わないんだけど、ずっと見てしまう、どんどんさみしい気持ちになっていっても。これは、さみしい気持ちになりたいときのための青。結局リキュールは3本買った、引っ越したのでそういう買い物もできる。

お姉さんに、ネイルを買いに行こうねと誘われた。その人はネイルするたびに「爪腐りました」といって銀色やコバルトブルーの爪の写真を送ってくる。毎回私はとても嬉しいので、「うわ~!」と一番最初に悲鳴を書き込んでしまう、おととい気づいた。最近は爪に色も塗っていない。

一ヶ月は友達のうちに居候していた。親戚みたいな距離感で、「おばか~」と言いながら結局色々やってくれる人と暮らしてた。倉庫には食べ物がいっぱい詰まってて、なんでも食べていいと言われていた。冷凍庫に入っていたかき揚げを食べたとき、中からたくさんイカが出てきて(これは流石に食べちゃダメな代物だったのではないか….)と不安になった。冷蔵庫の賞味期限切れのヨーグルトも食べた、美味しかったのでどこに売ってあるか聞いて自分で何度か試した。しかしあれは賞味期限切れだったからこそ美味しかったのだ。

私がうどんを作っている間その人は「へぇ~」とか「ふ~ん」とかいいながら私の作業を興味深そうに見つめた。なんだか落ち着かなくてつゆを多めに作ってしまう。

ある日、「え、一緒に住んでて私のこと追い出したりしますか?」とその人に聞いた夜があった。今考えれば、すごく攻撃的な質問だけど、そのときはそう言う聞き方をしてしまった。一ヶ月も住んでいれば、少しは(掃除の仕方などで)注意を受けたりもする。私の元同居人も最初は優しかったし、穏やかな人だと思っていた。しかし最後の数ヶ月は、私に怒りをそのままぶつけてきたし何をしても文句を言った。彼の頭がおかしい、と思っているし他の人もそう言うけれど、それでもなんとなく私にも原因があったんじゃないかと思っていた。

「いや、追い出さないよ」と即座に返ってきた言葉に、安心して(私は全く悪くないってこれで100パーセント自信持てるって思って)ちょっと泣いた。

前の同居人とは何があっても絶対に泣かなかったのに。

(そのあとに「こう見えても年下の女の人泣かすのは上手ですからね〜」と言われて涙もひっこんだ)

新しい同居人はとてもいい人で、前は音楽と映画の話で夜の3時まで話してしまった。おやすみ、と言って鏡で見た自分の顔が驚くほど別人でびっくりした、変形していて。あの人はこの顔と喋って怖くなかったんだろうかと思った。

選挙にも行った。日本で起こっていることにとてもムカムカして、本当に怒りながら大使館に向かった。インターネットで見るあの人の名前を初めて鉛筆で書いた。嬉しくて昼ごはんにはビビンバを食べて、来週にオランダに行くことを決めた。

5月からの自分を軽く書いてみました。

学祭の様子とかもまたレポートしますね、お楽しみに。

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