これは、いちおう回転寿司

今日は友達と会ってきた、彼女も5月生まれなので一緒に誕生会をしようという話だったのだ。

15時に街のケーキ屋で待ち合わせる。

友達は前に一緒にフリーマーケットで買った、ヘビ柄のグレーに光るシャツをきていた。髪型は、初めて見るポニーテール。

『かわいい、ですね』と噛みながら言うと

『mimiちゃんも、前髪かわいいね』と私のポニーを彼女も褒めてくれた。

ケーキを二人で頼んで、奥の奥の席に移動する。ウエイトレスがやってきて、飲み物を注文し、ケーキがやってくるのを二人で待っていた。

ケーキの写真を二人で思う存分撮りあった。他の人とご飯に行く時は、もしかしたらすぐに食べたいかもしれないなと思って私は写真を撮るのを遠慮してしまう。『また、インスタに載せるんでしょ〜』みたいにからかわれるのを恐れている、という気持ちもある。

でもこの友達といるときは、そんなこと全く気にせずにシャッターを切る。お互い満足するまで、今日のケーキの一番美しい角度を探す。

私には、ヨーグルトとベリーのムースケーキ。友達はレモンと生クリームのケーキ。お互いに『味見していいよ』と言いながら皿を近づけあったので、がちゃんといった。ひとすくいしたあとは、さっとすぐさま自分の方に皿を引き寄せる。

一ヶ月間会っていなかった間に起こった話をしあった、

大学でのプロジェクトの話、私の引越しの話、5月生まれの友達が多い話。

『今数えてみたら、私の知り合いのなかで7人は5月生まれですね』

小学校の時は、日付も全く一緒の男の子がいた。その日は私より、彼のほうが多くの友達に祝われるので少し寂しい思いをしていた。でもその日の間、二人、ふと目があった瞬間は『お誕生日おめでとう、』とちょっと会釈しあっていた。普段は全く喋らないのに。

ケーキはあっという間になくなってしまった。

『今日、めっちゃお腹空いてるんですよね』と言った。

『私も』と友達も微笑んだ。

実際、朝ごはんも昼ごはんも食べていなかったのでケーキ一個ではまだ全然物足りなかった。

『やっぱ、寿司食べ放題行きますか?』と提案。

一昨日までは、回転寿司に行く予定だったのだけれど、ちょっと値段が張るということで断念していたのだ。

しかし、もう言い出したからには止まらない私たち。

私たちは言い出したら止まらないのだ。言うということは、やるということ。

『行こうか』とスマホを取り出す友達。

もっと安い回転寿司があるはずだ、と検索し始める。

この街には、日本人がやっている回転寿司は一店しかない。

”高くて、まずい” らしいので他を当たることにする。

『見つけた、』呟く友達。

開店時間まであと1時間半、それまでぶらぶらしていることにする。

途中で、フライドポテト専門店を見つけてしまった。

黄色くこんがりあげられたジャガイモが三角の袋に入って、それを片手に次々と店から出て行く人たち。白くてとろりとしたマヨネーズがたっぷりとかかっている。

『美味しそうだな…』友達も見つけてしまった。

そして私たちはそこから一歩も動けなくなる。

いや、一歩二歩は歩くのだけど、何かと理由をつけてまたすぐにその店の前に戻ってしまうのだ。

『え、でも私たち、今から食べ放題するんですよ…』

『でもさ、二人で一袋シェアしたら大丈夫なんじゃない?』

『確かに….あ、さつまいものフライドポテトもあるな…』

『ね…』

二人は言い出したら止まらない、特に食べ物のこととなると。

結局目の前にはホカホカのフライドポテト、わさびマヨネーズがとろりとかかっている。10分もかからずに平らげた。

『まだ腹二分め』

『なんかここまできたらちょっとヤケクソ気味です、食べ放題いけますよ、これ。』

『わかる、フライパン余熱してるみたいな感じだよね。』

友達といたら底なし沼の食欲が湧き出てくる、いつも二人でお腹が痛くなるまで食べてしまうのだ。

まだ回転寿司屋ができるまでに時間があった、近くのアジアスーパーに行って時間を潰す。

そこで、カラフルなひも状のゼリーを乾燥させたもの、緑色のストライプ餅が作れる粉、安いそうめん、腐った豆腐などを見た。

私を今居候させてくれている人は、滞在費の代わりに私に「面白いことをしてほしい」と言っている、それは一番難しいことなのではないかと最近気付いた。

ピンクや蛍光黄色の透明なゼリーを眺めながら、「何しようかな」と考える私、今のところ、ピクニックすることしか思い浮かんでない。

来週にはイタリアにも行く、そこでも美術館に行った後にピクニックをするつもりだ。イタリアの友達も『mimiはピクニックしたがると思った』と笑った。

回転寿司屋はこじんまりとした店だった。

入ってすぐに友達が私の小皿に醤油を注いでくれた。

回転寿司はすでに始まっている。

店員がやってきて

『all you can eat?』と聞く。

頷く二人。

赤いつぶつぶは明太子の味がして辛い

日本の回転寿司と違って、食べ放題なので皿の値段を気にせずに思いきり食べられるのがドイツの回転寿司のいいところだ。

回転寿司が一般的でない人たちにとって、寿司が回っているだけでもエンターティメントショーなので、そこまで寿司を食べることには執着しない、という話を聞いたことがある。

前も他の回転寿司やに行ったとき、回ってきた寿司の皿を手に取り

『ワーオ』と言って写真を撮っては、二三皿食べた後に帰って行った人たちのことを思い出した。そういう人が少なくなかった。

あの時は日本人の友達と四人で行ったのだけれど、あまりにも食べるので店員さんに明るく笑いながら『もう来ないで〜』と言われたのだった。

スシ◯ーなどに行った時のように

『黒い皿は300円だからよしとこう…』などといった遠慮をする必要はない。

赤い皿、黄色の皿、黄緑の皿、デザートだって自分が好きなものを取れば良い。

流れて行く寿司を見つめながら

『まずそ〜』と笑った、なぜこんなものに心躍らせているのだろう、不思議だ。

日本で一人でスシ◯ーに行ったときより、数十倍楽しかった。

味は意外といけるのだ、私の舌は酢の味がした米に生魚がのっていればそれを寿司と認識するようになってしまった。

向かいに座った友達とは一切目が合わない、二人とも隣の流れる寿司しか見ていないから。

毎回、回転寿司に行くと自分でもこの興奮が抑えきれなくて怖くなってしまう。目の前を流れる寿司を逃すまいと常に目を光らせ、かっさらい、かといってそれを味わうわけでもなく、またベルトコンベアを凝視しながらとった寿司を頬張る。

緑のつぶつぶ。ピーナッツが入っていた。

二人でひたすら寿司を食べる。

寿司は、たこ、いか、サーモンと焼いた魚にマヨネーズがかかったものだけだった。あとは全て巻きもの。それでもう十分なのだ、私には。寿司屋の息子は発狂するだろうが。

唐揚げは、スーパーの唐揚げ弁当に入っているくらいのクオリティー。つまり、そこまで悪くない味だった。(ドイツにしては)しかし、油物は今後のパフォーマンスの質に影響してくるのでほどほどに。

ネバネバした、コンデンスミルク味のスイーツ。美味しいのかわからない、友達はふた皿食べていた。

友達は『ディストピア感がある』と嬉しそうに
緑のタピオカスイーツと、白いスナックと蛍光ミドリの海藻サラダの組み合わせを撮っていた。

私たちが一番最初にやってきて、一番長く寿司を食べていた。

店は一人の職人によって回っていた。一本のベルトが店の真ん中で折りたたまれ、そこを窮屈に並べられた皿が静かに流れて行く。

壁には日本人形がかけられ、青や赤のライトが白い肌をてらす。

BGMはなぜか悲しげで、食欲をそぐには十分だった。

しかし店にはいつも客がいっぱいで、回転も早かった。

胃の限界はいつも急にやってくる。

『ちょっともう無理ですね…』といいながら、最後の皿を手に取る。

『私もこれで終わりかな』と友達も揚げバナナを食べつつ言う。

結局最終宣言からあと2皿くらいは食べるのだが。

最後はゼリーばかり二人で食べていた。

口の温度だけで溶かし食べるのが一番美味しいゼリーの味わい方
フラッシュをたくと綺麗
光り物が好きなのだ、カラスみたいさ

友達といるとバカみたいになってたくさん食べてしまう、

他の友達とこうなることはあまりない。他の私の友達は少食なので。

相手が食べないと、自分も食べる気を失ってしまう、申し訳ない気がして。

友達と一緒だと、好きなだけいろんなものが楽しめるのでとても嬉しい。

でも二人とも、食べるという行為になぜか卑しさを感じてしまうという共通の感覚があった。

時々、時々だけど、食べることはすごくはしたない、というか気持ち悪い行為のように感じる時があるのだ。罪悪感があるというか。それは太るから、とかの理由からかは分からない。

食べるときに毎回感じるわけではない、ある瞬間にふっとその嫌な気持ちが自分を支配する。そういう時は一番バカみたいなものを食べるようにする。

真夜中のファミリーレストランでいちごのパフェ、とか。

千と千尋の神隠しの、ちひろの両親が勝手に屋台のものを食べてしまって豚になったシーン。あれを映画館で見た5歳の私は大泣きして、途中で外に出ざるを得なくなった。そのことは覚えていないのだけれど(あとで、父から笑い話として聞いた。)私の”食べるときに感じる卑しい感じ”は、この場面から影響を受けているのかもしれないと思っている。

『食べるって、生きるのに一番近い行為だよね。だからかもな』と友達はいう。

確かに、友達は人の食べ物じゃないみたいなものをよく好んで食す。

紫色のベリー味のする紙のお菓子、ターコイズブルーの冷たいアイス、ミミズみたいな透明な赤のてかてかしたゼリー、今日も甘くてねっとりしたつぶつぶの緑のスイーツをふた皿も食べていた。

今日は、これでもかと友達と食べまくったのだけれど全くこの”卑しい”という気持ちにはならなかった。ほんとにがめつく食い尽くしたというのに。

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