全部フィクション 2

友達はコーンのビンの中に水を入れて飲む。

彼女にとってはそれが水筒の代わりなのだそうだ。

ビンは大抵、太陽印のコーンのビン詰のやつ。

彼女はコーンの甘みが残った水を飲むのが好きなので、最後の一粒までコーンをスプーンですくった後に、ゆすぐことなくそのまま水道水をビンに注ぐ。

黄色のかけらが浮かんだ水を美味しそうに飲む彼女。

私はそういうことは絶対にできない。

じっと見つめていると、(いる?)と口パクで聞いてくる彼女。

首を横に振る。

ある日、彼女の水はちょっとオレンジがかっていた。

「人参のびんも甘くておいしいんだよね」という彼女。

もう一人の私の友達は、お湯に花を浮かばせたものを持ってくる。

水筒は透明なので、だんだんと開いていく花弁を眺めることができる。

教授の話は今日も難しい。ついていくのを諦めて薄桃色の靄を見つめる。

気づいた友達、「飲む?」と小声で聞いてくる。

まだ温かいお湯に広がるほのかな甘みと青臭さ、意外にもあまりおいしいものではなかった。

タンポポを食べたときにあまりの苦さに吐き出したことを思い出した。

ツツジの蜜もそういえば、全然吸えなかったな。

いちごを食べると、上唇の境目が痒くなります。

私は、かわいいものを食べるのに向いていない身体なのかもしれない。

振り返ると、後ろの席で友達はちょうど黄色い水の入ったビンを開けるところだった。

彼女の手からそれを奪い去り、口に含む。

数粒が舌にまとわりつき、一瞬の後悔が頭を過ぎるが最後まで飲み込む。

味を感じるまいと、息も止めて目をぎゅっとつぶり、水が喉を通り過ぎていくのを待つ。

静かな驚きとともに閉じた目をひらく。

意外とおいしいのだ。

水で薄められたコーンの甘み、不思議とまろやかで今まで飲んできた液体のどれにも属さないのに、確かに安心するこの味。

嬉しくて、二口、三口と飲んでいくうちにビンはあっという間に空になった。

ビンの底越しに見える、友達の呆れた顔。開けた口がぐにゃりと歪んでいる。

「ごめんね、でもおいしい」と言うと

「でしょ、」と誇らしげな友達。私が今まであまりにビン水筒にいい顔をしていなかったのでことさら彼女は嬉しそうだ。

「最近はソーセージビンにもハマってるんだ。」

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