先週は友達がベルリンにきてくれて、一緒にライブに行ったりしました。
彼女とは受験期に通っていたアートクラスで知り合った人、かれこれ3年くらいの付き合い。
今はほんとに心おきなくなんでも話せるような仲だけど、
それまではかなりゆっくりお互いを信頼していった(?)ような私たち。
ほんとにじんわりとじんわりとつかずはなれずの距離を保ちながら。
静かな、人だと思っていたのだけど(人のこと言えないし、あまり人にそう言われるの好きじゃないけど、ほんとうにそう思っていた)
時々まったく予想を裏切ってくるような行動とか、
鋭くて繊細な言葉の受けとめ方とか、
時節(私はこの人のことを結局まだ何にも知らないな)と思わせる彼女。
秘密主義な人にはどうしようもなく惹かれてしまう私ですが、
きっと彼女の方はは私のことをフツーの人間だ
(もちろん私は、フツーの人間なんですが、それを信じたくない自分もいるのです)と思っているんだろうな、
きっと眼中にないんだろうなと勝手に悲しく思ったりしたこともありました。
友達はこれを聞いたら『そんなことないよ!!』ってすごく一生懸命否定してくれると思うので、
言いますが、今はまったくそんなこと気にしてないし、
あなたの友達であることを喜んでいます!
だから彼女が今でも時々私と会って一緒にご飯を食べて、
3年前は聞けなかったような話をしてくれるときはほんとうに嬉しい。
(ハワワ恥ずかしくなってきた、きっとこれは友達も読むだろうし)
ある日、『この歌いいよ』と勧められた歌を聞いてみたら、
真っ暗で何も見えない沼に引きずり込まれるような気持ちになってとても怖くなってしまってすぐに聞くのをやめてしまった。
このまま聞いていたら、その囁き声から逃れられなくなってしまうような気がして。
自分が飲み込まれそうになって恐怖を感じた音は初めてだったし、
そこまで本能的そして反射的に『聞きたくない』ってなった自分に驚いた。
ベルリンにきて色々なものを見たり聞いたりして、
前よりだいぶいろんなものが受け入られるようになったと思っていたからさらに。
明るく光るApple musicの画面を見ながら、
この中にこんな世界が紛れ込んでいるんだ、そして、どうやってそれを友達は見つけたんだろう?と思った。
いっときそのままにしていたけど、またある日思い出したように再生ボタンを押した。
その時は前感じた恐怖感とかはなくて、きっとあの夜の自分の不安定な気持ちが影響していたんだと思った、少し残念だった。
あれはとても怖い体験だったけど自分がいなくなってしまいそうなあそこまでの衝撃をもう感じれないのかと思うと。
そしてそこから実はひっそり何度か聞いていた、
他の人にも教えてみたりした。
他の人に教えるのは、少し「こういう曲も知ってるんだよ」っていう自慢の気持ちも入っていたかもしれない。
友達がベルリンに遊びに来るらしい。
ライブにも行くらしい。
「なんのライブですか」と聞くと、前教えてくれたロシアのアーティストのライブらしい。
「行きたいです!」というと、友達は一緒に行けることを喜んでくれながら少し私を心配してくれた。
私はまだあの曲を『怖い』としか彼女に言っていなかったから。
Applemusicで聞くだけじゃなくて、youtubeでも彼らのMVを見てみた。
見れば見るほど、「悪魔みたいな人たちだな…」と思ったし、「でもちゃんとコンセプトに従ってMVは撮ってるんだもんな」
とかそういうことからしか彼らから人間みを感じることができなかった。
やっぱりこわいな、と思いながらも最後まで何度も聞いてしまう。
ライブにきて行く服はどうしよう、と思っていたけど何だか本当に俗な悩みだと思ったし、
そんなことで悩む奴が彼らのライブに行く資格はあるのかとかまで考えてなかなか友達にも言いだせなかった。
(いつも考えすぎる癖がある)
でもライブ前日になって、どんな服を着るのですかと友達に聞けたし、
彼女は着て行く予定の服を色まで詳しく教えてくれた。
私はお姉さんに優しくされるとほんとに嬉しい。
甘えたがりだから。
そして友達がやって来た、大きい白いスーツケースを持って。
「成人に見える程度の化粧」をして来ると言った彼女のメイクを見て、私もさらにアイシャドウを重ね塗りした。
一緒に来て行く服を選んでくれて、そのまま夕ご飯を食べに外に出る。
電車で向かいに座って来た少年二人が大声で話しているが、
どうやら私たちに話かけて来ているらしい。
「めんどくさいな〜」と思った。友達はそれに気づいてか、
「これ美味しそうだよね」と言いながらお菓子の写真を見せてきた。
「うわ〜美味しいそうですね〜」と言いながら私たちはスマホの画面を見つめる。
完全に向かいの彼らを無視すると決めたから、
少年の一人が英語でまた何か言ってきても二人で「食べてみたいですね〜」と二人でお菓子の世界に思いを馳せた。
でも彼らはなかなか諦めない、
足を思い切り振って私たちの注意を引こうとしたりカメラを向けてきたりするので、彼らの顔を見ないまま違う車両に移ろうとした。
次の駅で一旦降りて、そのまま後ろの車両に飛び乗る。
「やった、」と二人でクスクス笑っていたら扉が閉まる直前に彼らも同じ車両に乗り込んできた。
笑顔はたちまち消えた、また彼らは向かいに座って大声でしゃべり始める。
友達と私は、側で座っていた犬だけを見つめて「かわいいですね〜」と言っていた、実際心臓はばくばくしていたし、意識は常に彼らにあった。
少年の一人が私のブーツを指差して、『いい靴だね」と言ってきた。
前の車両より人はいたし、こわいとかは無かったんだけど「こいつらを徹底的にぶちのめしてやりたい」という気持ちと、
それができない自分にイラついていた。
中国人の私の友達は、階段を降りぎわにわざとぶつかってきた男を振り返り、すごい形相で『WTF!!!』と言い返していた、
彼女の大声に驚きながらも、自分もこうありたいと思ったが実際は、ずっと黙ってこの場をやり過ごすしかない私。
何だか興奮しすぎて彼らに今何かを言おうとすれば声は裏返り、泣いてしまうんではないかと思った。
私たちは今からあの人の歌を聞きに行く、イカした女たちなんだ、ダサいやつが気安く話しかけてくんじゃねーよ
最後まで付いて来るんではないかと思い、その時の対処法を友達と話していたら彼らは降りて行った。
やっと正面を向いて、「本当にムカつくね」と彼らへの呪詛の言葉を思いつく限り二人で呟いた。
「きっと私たちが筋肉もりもりムキムキマッチョだったら、
あんな話しかけてこないんだよ」と友達が言って笑った。
「私たちがアジア人の女の子だから、ああいうことをしてきたんだよ、だから徹底的に無視してやった」
とてもイライラしていたが、今からのライブに向けていいフラストレーションが溜まったということにした。
ライブでは思い切り暴れてやる。
赤い光の中でic3peakの二人はやって来た。
映像でしか見たことがない彼らが本当に存在するんだ、
と思ったけれどもやっぱりすぐそばにいても現実味がなかった。
彼女は長い三つ編みを頭の上で結み、歌いながら頭をふるのでそれがまるで別の生き物のように跳ね上がって、うねっていた。
私たちは最前列にいて、彼女の髪の毛が自分の頰にぴしゃんとあたるんではないかと思うくらい彼女が近くに来たこともあったし、
きっと彼女と目があった瞬間もあったと思う。
オッドアイの彼女の目は実際あんなにそばにいても、暗すぎて見えなかったし、思わず怯んで目をそらそうとしたとき、
遠くからぶすっとした顔でこちらを見る他のファンの女の子が見えた。
「ムキムキマッチョの男でなくてよかったね、
何も気にしないで一番前で見れるし」と友達が笑った。
歌う彼女からはねったりとした、でもかすかな甘い香りがした、
桃とかナシみたいな。もしかしたら会場自体が最初からそう香っていたのかもしれない、と思うほどさりげない芳香。
そこに一番人間味を感じたし、なぜか安心した。目の前で人間とは思えない声を出しながら這いつくばっていたとしても。
後ろではロシア語で一緒に大声で歌う若い子達がいて、時々強くぶつかってきた。
宗教と音楽って同時に生まれるものなのかもしれないと思った、その熱狂的な眼差しを見て。
彼らにいきなり押された私はステージのヘリとの間につぶされそうになる。
かと思ったら、今度は男がステージに駆け上がり、そのまま観客の波へと飛び込んで行った。歓声が上がり一瞬で消えて行く。
もう一人が続く。
周りの人はみな激しく跳ねている、隣の友達を見たら頭を振りながら踊っていた。
私はなかなか思い切れない、今ここで無理やりかかとを浮かせてもわざとらしくなってしまいそう、とウジウジしていたところで、
いきなりnickが手を思い切り振った。
顔にかかる冷たい水、驚いてそのまま飛び跳ねてしまった、そこからは自由だった。
頰からだんだんと蒸発していく水滴を最後まで感じながら踊った。
1時間はあっという間に終わった、次のバンドの演奏も始まったがあの興奮を忘れてしまいそうだったので、少し聞いてから途中で出た。
ライブの前の嫌な思い出は綺麗さっぱり忘れ去り、とにかく気持ちよく二人で地下鉄に揺られて帰った。
喉が無性に乾いて2本もレモネードを飲んだ。
夜はそのまま寝られずに二人でずっとおしゃべりをした、恋の話とか。
恋の話といっても、愛し愛され方とか気持ちの揺れとかそういう曖昧でぼんやりとしたものなのだけど。
友達とはなぜか恋愛の話を全然してこなくて、そういうのに興味がないと思っていたし、
こういう話ができるようになるとは思ってもいなかった。
眠くなるかな〜と思っていたけど、聞こえてくる友達の声はいつまでたってもはっきりしているし、今寝てしまったらもうこの話をできないんではないかと思ってずっと喋り続けた。
「また、時々二人で寝るまで電話するのもいいかもね」と友達が言って、
「え、それって私とってことですか」と私は全然スムーズではない受け答えをしてしまった。
「うん、そうだよ」と友達は笑った。
私たちの夜はまだ続く。